
Kid Milli(キッド・ミリ)は、1993年生まれの韓国ラッパー。2017年頃から本格的に頭角を現し、音楽だけでなく、ファッション、アート、そしてラップの言葉選びにおいても強い影響力を持つ存在へと進化してきた。
所属はIndigo Music(かつてはJust Music傘下)というクルー。Swings、No:el、Jvcki Waiなど、エッジの効いたメンバーが揃う中でも、Kid Milliは常に「その場にいても、ひとつ隣にいるような」異質さを放っている。
『SHOW ME THE MONEY』シリーズで広がった輪郭
一般的な認知を広げたのは、『SHOW ME THE MONEY 777』(2018)での準優勝。過剰なアティチュードに頼らず、自意識とリズムの“間”を操る独特のラップスタイルは、番組というフォーマットの中でも際立っていた。
彼は“技術”ではなく、“構造”で魅せる。ラインの隙間や拍のズレにこそ意図があり、声の質感と相まって、ラップそのものが一つのグラフィックのように聴こえる。
「WHY DO FUCKBOIS HANG OUT ON THE NET」──名刺代わりのアルバム
2019年にリリースされた『Cliché』以降、Kid Milliは“テーマ性”よりも“プロセス”に重きを置いた音楽を多く発表してきた。とくにEP『WHY DO FUCKBOIS HANG OUT ON THE NET』は、SNS時代の“承認と不安”を、軽くて冷たいトーンで切り取る作品だ。
彼のラップには、怒りも自虐もあるが、それ以上に“脱力”がある。戦うのではなく、距離を取る。その姿勢が、逆に現代的な強さを持つ。
ストリートと知性の“間”に立つ存在
Kid Milliの魅力は、ヒップホップというジャンルに対して、どこか俯瞰で構えているその姿勢にある。彼の言葉はよく聴くと哲学的で、社会的で、そして個人的だ。
それでいて、ストリートから乖離しない。ファッション、スケートカルチャー、デジタル・スラングの引用。何気ないバースにも、現在地のリアルが刻まれている。
Kid Milliのラップは“言葉”というより“余白”でできている
彼の作品を聴くと、韻やスキルの派手さよりも、“どこに言葉を置かなかったか”にこそ意味があると感じる。
ラップというより、タイポグラフィ。メッセージというより、構図。
そんな言葉の置き方が、韓国のHIPHOPにおいて唯一無二の線を引いている。Kid Milliは、静かに確信している。ヒップホップは、時代の真ん中じゃなくていい。端っこから、ずっと見ていても成立することを。
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